我が家は、子どものことをだいたい親が決めてきました。
朝に着る服も、晩ごはんの献立も、いつ何の勉強をするかも。そのほうが速いし、もめないし、効率がいい。3人いると、いちいち選ばせていたら一日が終わってしまう——そう思って、ほとんど先回りして決めてきました。
でも最近、その効率の良さと引き換えに、何かを失っている気がしていました。「やらされてる感」です。決めたとおりに動いてはくれるけれど、どこか他人事。自分のことなのに、自分で選んでいないからです。
きっかけは、堀田秀吾さんの『すごい習慣大百科』(SBクリエイティブ)という本でした。その中に「自己決定が幸福度を上げる」という話が出てきます。調べてみると、神戸大学が2万人を対象に行った研究で、所得や学歴よりも「自分で決めたかどうか」のほうが、幸福感に強く影響していたそうです。所得と比べても1.4倍ほど効いていて、学歴に至っては、はっきりした差が出なかった。
理由はシンプルで、自分で決めたことは、自分の判断で努力して達成しようとするから。結果に責任と誇りを持てるから。だから達成感も自尊心も育って、幸福につながる——という話でした。
これは、投資で私がさんざん体感してきたことと同じです。人に勧められて買った株は、下がると人のせいにしたくなる。でも自分で調べて自分で決めて買ったものは、下がっても納得して持ち続けられる。「自分で決めた」という事実が、その後のすべてを変える。
だったら、子育ても同じはずです。そう思って、これまで親が握っていた決定権を、少しずつ子どもに返す実験を始めました。まだ始めたばかりですが、やってみて分かってきたことを、領域ごとに書いていきます。
大前提:選択肢は「3つ」にする
最初に、失敗から書きます。いきなり「好きにしていいよ」と丸投げしたら、子どもは固まりました。選択肢が多すぎる(あるいは無限)と、人は逆に選べなくなる。これは大人でも同じです。
うまくいったのは、選択肢を3つに絞って渡すこと。「自由に決めて」ではなく「AとBとC、どれにする?」。枠は親が用意して、その中から本人が選ぶ。これなら決められるし、「自分で決めた」感覚もちゃんと残る。我が家の自己決定は、ぜんぶこの「3択」が土台になっています。
① 「やりなさい」を「どれにする?」に変える
いちばん効いたのが、これまで親が決めてきた服・食事・勉強の3つを、3択に変えたことです。
- 服:「これを着なさい」→「この3枚から選んで」。前夜に親が3枚出しておく(寒さや天気の枠は親が確保する)。
- 食事:「これ食べなさい」→「副菜、ほうれん草とブロッコリーとひじき、どれにする?」。メインは決まっていても、1品選ばせるだけで食いつきが変わる。
- 勉強:「宿題やりなさい」→「算数・漢字・英語、どれからやる?」。やる事実は動かないけれど、順番を選ばせる。
命令を選択に変えるだけ。中身はほとんど変わっていないのに、「やらされ感」が驚くほど減りました。前に褒め方の記事でも書きましたが、子どもは「自分で決めた」と思えると、急に素直になります。
② お小遣いは、使い道に口を出さない
これはいちばん勇気が要りました。お小遣いの使い道に、いっさい口を出さないことにしたんです。
つい「それ無駄じゃない?」「貯めておきなよ」と言いたくなる。でも、それを言った時点で、お小遣いは「自分のお金」でなくなる。だから、ぐっとこらえる。くだらないもの(と親が思うもの)を買って後悔するのも、立派な勉強です。
これは我が家の投資の考え方と、まったく同じです。自分のお金を、自分で決めて使い、結果を自分で引き受ける。小さな失敗を、痛くないうちにたくさんしておく。1,000円の使い道で後悔した経験は、将来の大きなお金の判断を支える練習になります。
唯一のルールは、我が家の「5,000円以上は相談」だけ。その枠の中なら、何に使おうと本人の自由。失敗しても責めない。これが、いちばん難しくて、いちばん大事な約束です。
③ 日替わりの「決める係」
その日の何か1つを子どもが決める「決める係」を、日替わりで回しています。
晩ごはんの副菜を1品、休日にどこへ行くか、週末の映画を何にするか。小さなことでいい。「今日はあなたが決める番」と決めておくと、決めること自体が役割になって、ちょっと誇らしげにやります。3人いるとケンカになりがちな「決定」を、日替わりにするだけで公平になり、もめごとも減りました。
④ 「続ける・やめる」を本人に決めさせる会議
習い事や勉強について、「続けるか、やめるか」を本人に決めさせる場を作りました。
親としては続けてほしいものもあります。でも、「やめてもいい」という選択肢を本気で渡さないと、続けることも本人の決定になりません。やめる自由があるうえで「続ける」と本人が言ったなら、それは強い。我が家では、学期の変わり目などの節目に「どうする?」と聞く時間を作るようにしました。
⑤ 休日のプランを、子どもに立てさせる
休日の予定を、子どもに立てさせています。渡すのは枠だけ。「予算はこれくらい、時間はここからここまで」。その中で、どこへ行って何をするかは本人が考える。
最初はうまく組めませんが、それでいい。予算内で何を選ぶか、時間内で何ができるかを考えるのは、まさにお金と時間の使い方の練習です。旅行のときも、行き先で何をしたいかを本人に調べさせています。自分で調べて決めた場所は、当日の食いつきがまるで違います。
⑥ 部屋・机まわりの模様替え権
机や部屋の物の配置を、本人に決めさせています。
前にナッジの記事で「道具は手を伸ばせば届く1か所に」と書きましたが、その「どこに置くか」を親が決めると、結局やらされた配置になる。だから原則だけ伝えて(よく使うものは近くに、など)、具体的な配置は本人に任せる。自分で決めたレイアウトのほうが、片づけも続きます。
⑦ 時間とゲームの使い方は、本人に「提案」させる
これがいちばん新しい試みです。1日の時間配分、とくにゲームの時間を、親が「1時間まで」と決めるのをやめて、本人に提案させることにしました。
「1日のうち、ゲームをどれくらい、いつやるか、自分で考えて提案して」。そのうえで、親の思いも正直に伝えます。「夜遅くにやると寝るのが遅くなって、次の日つらいよね」と。一方的に禁止するのではなく、お互いの希望を出し合って、WIN-WINの落とし所を一緒に探す。
押しつけた1時間より、自分で「45分にする」と決めたほうが、不思議と守られる。守れなかったときも、「自分で決めたルールだよね」と返せる。叱るのではなく、本人の決定に戻せるのが大きい。
これは、これまでのナッジと1セットです
ここまで書いてきて思うのは、自己決定だけでは回らない、ということです。
我が家はこれまで、環境を整えて動きやすくし(ナッジのピラー)、結果でなく過程を褒め(褒め方の記事)、「もしAしたらB」で流れを作ってきました(ルーティンの記事)。その仕上げが、今回の「自分で決めさせる」です。
環境で動きやすくして、過程を褒めて、流れを作って、最後に本人が決める。この4つが揃って、ようやく「言わなくても動く家」に近づくのだと思います。決定権だけ渡しても土台がなければ回らないし、土台だけ作っても決定権がなければ「やらされ」のまま。順番に積み上げるものなんだと、4本書いてみて分かりました。
親の仕事は、口を出したいのをこらえること
正直に言うと、いちばん難しいのは子どもではなく、親のほうです。
決めさせると、最初は非効率だし、失敗するし、見ていてもどかしい。「こうすればいいのに」と口が出そうになる。でも、そこで手を出したら、全部台無しになる。黙って見守って、失敗を引き受けさせる。これが想像以上にしんどい。
だから、完璧を求めないことにしました。10回のうち何回かは口を出してしまうけれど、それでもいい。少しずつ、決定権を返していければ。
所得でも学歴でもなく、自分で決められること。それがいちばん幸福度に効くのだとしたら、決定権を子どもに返すことは、親ができる投資のなかで、いちばん利回りのいいものかもしれません。
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