インデックスだけの人と、時々個別株に手を出す人。30年後に2,500万円の差がつく試算

「オルカンだけで十分」と分かっているのに、つい個別株の板を見てしまう時期がありました。決算がいい会社を見つけると、これは伸びる気がする、と。実際に何度か手を出しました。結果は、以前キオクシアの記事に書いたとおりです。当たったものもあれば、外したものもある。

問題は、当たり外れそのものではありませんでした。当たっても外しても、私はその株を一日に何度も見て、上がれば売りたくなり、下がれば戻るまで待ちたくなる。その繰り返しで、気づけばインデックスの積立設定まで、なんとなく止めていた時期があったのです。

今日は、そのころの自分に向けて、数字で答え合わせをしてみます。同じ金額を積み立てても、「インデックスを淡々と続けた人」と「時々これは伸びると個別株に乗り換えた人」で、30年後にどれだけ差がつくのか。

目次

二人の投資家を用意する

比較のために、二人の投資家を用意します。二人とも、毎月10万円を30年間、休まず投資に回すところまでは同じです。違うのは、そのお金の置き方だけです。

  • 淡々さん:全世界株のインデックスファンドを買って、あとは何もしない。上がっても下がっても設定を変えない。
  • ブレさん:基本はインデックスなのですが、年に何度か「この銘柄は伸びる」と思うと、積立をいったん止めて個別株に乗り換える。上がれば利益確定したくなり、下がれば戻るまで塩漬けにする。

ブレさんは、決して怠け者でも情報弱者でもありません。むしろ人一倍、決算を読み、ニュースを追い、板を見ています。努力の量でいえば、淡々さんよりずっと多い。かつての私です。

前提を置く(ここは正直に)

シミュレーションの前提を先に開示します。あくまで一定の前提のもとの試算で、諸説あります。

  • 積立額:毎月10万円、30年間
  • インデックスの想定利回り:年5%(税・手数料は簡略化のため考慮せず)
  • ブレさんの実効利回り:年3%(インデックスより年2%低いと仮定)

ここでいちばん説明が要るのは、「なぜブレさんは年2%低いのか」でしょう。

個別株そのものが必ず負けるという話ではありません。問題は、人がそれを売買するときの行動です。個人投資家の実際の成績は、保有していたはずの指数そのものより年に数%ぶん低くなりやすい、という調査が国内外にあります。理由は単純で、上がったところで買い、下がったところで売ってしまうから。「高く買って安く売る」を、本人はよかれと思って繰り返してしまう。この差は、しばしば行動ギャップと呼ばれます。

この行動ギャップは、控えめな調査でも年1.5%前後、厳しめの調査だと年3〜4%とばらつきます。今回はその真ん中あたりを取って、年2%低いと置きました。決して個別株に厳しすぎる数字ではなく、むしろ現実にはもっと開くこともある、くらいの控えめな設定です。

30年後、二人の口座を並べてみる

同じ月10万円を30年積み立てた場合の、二人の資産の伸びです。

経過年淡々さん(年5%)ブレさん(年3%)
5年680万円646万円34万円
10年1,553万円1,397万円155万円
15年2,673万円2,270万円403万円
20年4,110万円3,283万円827万円
25年5,955万円4,460万円1,495万円
30年8,323万円5,827万円2,495万円

投じた元本は、二人ともまったく同じ3,600万円です。それでも30年後には、約2,500万円の差がつきました。

面白いのは、最初の5年ではたった34万円しか違わないことです。この時期のブレさんは、むしろ「淡々さんより自分のほうが詳しいし、努力もしている」と思っているかもしれません。差が牙をむくのは後半です。複利は、わずかな利回りの差を、時間をかけて何倍にも広げます。10年で155万、20年で827万、そして30年で約2,500万。じわじわ開いて、最後にどうにもならない距離になる。

念のため、この「年2%低い」という仮定を動かすと、差はこう変わります。

ブレさんの下振れ30年後のブレさん淡々さんとの差
年1.5%低い(控えめ)6,354万円約1,968万円
年2%低い(今回の標準)5,827万円約2,495万円
年3%低い(厳しめ)4,927万円約3,395万円

どの前提を取っても、差は2,000万円前後から3,000万円超。行動ギャップをどう見積もっても、結論の向きは変わりませんでした。

お金以外にも、差はついている

ここまでは金額の話です。でも、私が本当に伝えたいのは、この表に出てこないほうのコストです。

ブレさんは、この30年間ずっと、株を見ていなければなりませんでした。決算の日はそわそわし、暴落のニュースで胃が重くなり、含み損の銘柄を持っている夜は寝つきが悪い。旅行先でもチャートを開いてしまう。その時間と気疲れを、仮に一日平均10分としても、30年で1,800時間を超えます。

一方の淡々さんは、その30年で株のことを考えた時間が、ほとんどありません。設定して忘れて、あとは家族と過ごしていた。同じ、いやむしろ多い資産を、より少ない労力と、より穏やかな夜とともに手に入れている。

私が個別株から距離を置いたのは、損得の計算だけが理由ではありませんでした。あの「一日に何度も口座を開く感じ」が、暮らしから静けさを奪っていたからです。投資は家族の保険のはずなのに、その保険のことで眠れないのでは、順番が逆でした。

個別株が悪い、という話ではない

誤解のないように書いておきます。個別株そのものを否定したいわけではありません。

我が家は今も、楽天やイオンの株を優待目的で持っています。携帯代が浮いたり、映画にポップコーンがついたり、生活に直結する優待は、暮らしを豊かにしてくれます。これは「値上がりで儲ける」ゲームとは別物で、はっきり残しています。趣味として、なくなっても困らない範囲で好きな会社の株を持つのも、私はいいことだと思います。応援したい会社にお金を託すのは、それ自体が楽しい。

問題になるのは、インデックスの幹まで揺らしてしまうときだけです。「これは伸びる」で積立を止め、乗り換え、狼狽して売る。その繰り返しが、複利という一番の武器を自分で手放させる。ブレさんの2,500万円は、才能や情報量で負けたのではありません。ただ、幹を揺らし続けただけでした。

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淡々を、仕組みで手に入れる

とはいえ、「淡々としていよう」と意志で決めても、板を見れば人は動きたくなります。私自身がそうでした。だから最後は、淡々さんのやり方を、意志ではなく仕組みで再現する話に戻ります。

積立はクレカで自動化して、証券アプリのホーム画面をあえて見ない。個別株の取引は、優待の権利確定など「用がある時だけ」開く。動きたくなる自分を、そもそも板の前に立たせない。これは投資に限らず、我が家が家計や暮らし全体でやっている、意志より順番を固定するといういつものやり方です。

30年後の2,500万円は、賢さの差ではなく、幹を揺らさなかったかどうかの差でした。淡々さんは、たぶん特別なことを何もしていません。ただ、始めたことを、やめなかっただけです。


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