コロナショックのとき、私は積立を増やしました。
それまで毎月10万円ずつ積み立てていたのを、株価がどんどん下がっていく中で、月15万円に引き上げたんです。「こんなに安く買えるチャンスは、そうそうない」と思いました。ずっと貯めていた現金があったので、これを使おう、と。
あれから5年がたちました。あのときの判断は、正解だったのか。
今日は、自分が実際にやったことを、電卓で検証してみます。そして、せっかくなので、これから投資を始める人に向けて、「次の暴落が来たとき、どう動くと将来どれだけ差がつくか」を、徹底的にシミュレーションしてみました。けっこう驚きのある数字が出たので、全部お見せします。
最初にお断りしておくと、ここから出てくる数字は、すべて一定の前提を置いた試算です。将来の運用成果を保証するものではありませんし、特定の投資をすすめるものでもありません。あくまで「考え方の道具」として読んでください。
まず、自分がやったことを検証する
2020年の3月から5月にかけて、私は積立を月10万円から15万円に増やしました。3か月で、いつもより15万円多く投じたことになります。
これが、5年後の今、どうなっているか。比べるために、「もし何もせず、月10万円のまま淡々と続けていたら」という架空のパターンも計算しました。2020年から2025年末まで、全世界株のインデックスに投資したと仮定した試算です。
| シナリオ | 投資元本 | 2025年末の評価額 | 含み益 |
|---|---|---|---|
| A 何もしない(月10万のまま) | 720万円 | 約1,131万円 | 約411万円 |
| B 暴落の3か月だけ15万に(私がやったこと) | 735万円 | 約1,166万円 | 約431万円 |
差額を見ると、私が追加で投じた15万円は、5年後に約35万円になっていました。元本が2.3倍くらいに育った計算です。暴落のさなかに買った株が、その後の回復でしっかり値上がりした。つまり、「暴落で買い増す」という判断そのものは、間違っていませんでした。
でも、正直な感想を言うと、私の心には少し後悔が残っています。
「もっと出せばよかった」という後悔です。
「もっと出していたら」を計算してしまった
なぜ後悔したのか。それは、もし私がもっと大胆に買い増していたら、という数字を計算してしまったからです。
同じ2020年3〜5月の3か月間で、積立額をもっと増やしていたら、5年後どうなっていたか。並べてみます。
| シナリオ | 追加で投じた額 | その追加分の2025年末の価値 | 増えた含み益 |
|---|---|---|---|
| B 月15万に(実際) | +15万円 | 約35万円 | +20万円 |
| C 月30万に | +60万円 | 約140万円 | +80万円 |
| D 月50万に | +120万円 | 約281万円 | +161万円 |
| E 3月に一括300万円 | +300万円 | 約667万円 | +367万円 |
底値の近くで買えた追加分は、どのパターンでも、5年でだいたい2.3倍前後に育っていました。だから、出せば出すほど、結果は大きくなっていた。一括で300万円を投じていたら、それだけで含み益が367万円も増えていた計算です。
私はあのとき、現金をまだ手元に残していました。「もう一段下がったら、そこでもっと買おう」と思って、待機させていたんです。でも、その「もう一段」は来ませんでした。相場は、私が待っているあいだに、するすると回復してしまった。
この「待っていたら底を逃した」という感覚が、この記事のいちばん大事なテーマにつながります。後で詳しく検証します。
これから始める人へ。次の暴落で、どう動くか
ここからが本題です。
過去の自分の話より、これから投資を始める人にとって役に立つのは、「次に暴落が来たとき、どう動けばいいのか」だと思います。暴落は、いつか必ず来ます。問題は、そのとき自分がどう動くかです。
そこで、こういうシミュレーションをしてみました。これから30年間、毎月5万円を積み立てる人がいるとします。その人が投資を始めて15年目に、株価が45%下がる大暴落が起きたとします。リーマンショック級の、かなり厳しい暴落です。
その暴落のときに取る行動を、5パターンに分けて、30年後の資産を比べました。年平均7%で運用できたと仮定した、あくまで試算です。
| 暴落時の行動 | 投資元本 | 30年後の資産 | ①との差 |
|---|---|---|---|
| ① 何も変えず淡々と続けた | 1,800万円 | 約5,151万円 | (基準) |
| ② 暴落の2年間だけ積立を倍に | 1,920万円 | 約5,532万円 | +約380万円 |
| ③ 暴落の2年間だけ積立を3倍に | 2,040万円 | 約5,912万円 | +約760万円 |
| ④ 怖くなって積立を2年止めた | 1,680万円 | 約4,771万円 | −約380万円 |
| ⑤ 怖くなって売ってしまった | 1,800万円 | 約2,005万円 | −約3,150万円 |
この表には、いくつも大事なことが詰まっています。
まず、夢のある話から。月5万円を淡々と積み立てるだけで、30年後には約5,151万円になっています(年7%で運用できた場合の試算です)。暴落を1回はさんでも、です。これが、続けることの力です。
そして、暴落のときに積立を増やせると、ボーナスがつきます。倍にすれば約380万円、3倍にすれば約760万円、最終資産が上乗せされる。安いときにたくさん買えたぶんが、効いてくるわけです。
でも、本当に注目してほしいのは、下の2つです。
最大の失敗は「買えないこと」ではなく「売ること」
表の④と⑤を見てください。
積立を2年止めてしまった人(④)は、淡々と続けた人より約380万円少なくなりました。これは、安く買えるいちばんおいしい時期に、買うのをやめてしまったからです。もったいない。でも、まだ傷は浅いほうです。
問題は⑤です。怖くなって売ってしまった人は、30年後の資産が約2,005万円。淡々と続けた人と比べて、3,150万円も少ない。
暴落のときに積立を増やせるかどうかは、最終資産を数百万円動かす話でした。でも、暴落のときに売ってしまうかどうかは、3,000万円を超える差を生む話だったんです。
ここに、暴落との付き合い方の核心があると思っています。私たちがいちばん気にすべきなのは、「底でたくさん買えるか」という攻めの部分ではなく、「暴落で売らずにいられるか」という守りの部分です。買い増しは、できればボーナス。でも、狼狽売りは、絶対に避けなければいけない大事故です。
私がコロナのとき、もっと買えなかったことを後悔していると書きました。でも、少なくとも私は、売りませんでした。積立も止めませんでした。いちばん大きな失敗だけは、避けられていた。そう考えると、後悔の中にも、ほっとする部分があります。
「底を待つ」は、なぜ機能しないのか
最後に、私がいちばん伝えたいことを検証します。「もう一段下がったら買おう」と底を待つことの、危うさです。
暴落が来たとき、誰もが「どこが底か」を知りたくなります。底で買えれば、いちばん効率がいいからです。でも、底は、あとになってからしか分かりません。渦中にいるときは、今が底なのか、まだ下がるのか、誰にも分からない。
待機資金300万円を持っている人が、暴落の「底」からどれだけずれて買うと、結果がどう変わるか。1年後の価値で計算してみました。底から相場が1年かけて6割戻る、という想定です。
| 買ったタイミング | 取得価格の割高さ | 1年後の評価額 |
|---|---|---|
| 底のその瞬間 | ±0% | 約480万円 |
| 底から2か月後 | +15% | 約417万円 |
| 底から4か月後 | +28% | 約375万円 |
| 底から6か月後 | +40% | 約343万円 |
| 底から12か月後 | +60% | 約300万円 |
底のその瞬間に買えれば、300万円は1年後に480万円になります。でも、底から6か月待ってしまうと343万円、1年待つと、ほぼ増えません。
つまり、「もう少し下がってから」と待つことには、大きな代償があります。待っているあいだに相場が戻り始めたら、おいしい時期はあっという間に過ぎてしまう。そして、底で買おうとして待つ人ほど、たいてい買いそびれます。なぜなら、底のときは世界がいちばん暗く見えて、いちばん買いたくない気分になっているからです。
私がコロナのとき「もう一段下がったら」と待って、結局その現金を入れ損ねたのは、まさにこれでした。底は、私が待っていたあの瞬間だったんです。あとから振り返れば分かる。でも、そのときは分からなかった。
では、どう動くのが正解か
ここまでの検証から、暴落との付き合い方を、私なりにまとめます。
まず、絶対にやってはいけないのは、売ることと、積立を止めることです。これは3,000万円を失いかねない大事故でした。暴落が来ても、自動の積立設定には指一本触れない。これが大前提です。
そのうえで、もし余力があるなら、買い増しはボーナスとして有効です。ただし、底を当てようとしてはいけません。底は誰にも分からないからです。
だから、買い増しをするなら、私はこう考えるようになりました。下がったら、底を狙わずに、機械的に何回かに分けて入れる。たとえば手元の余力を3回に分けて、「10%下がったら1回目、20%下がったらもう1回、30%下がったらもう1回」のように、あらかじめ決めておく。こうすれば、底を当てる必要がなくなります。さらに下がっても二の矢、三の矢が残っているので、「待ちすぎて買えなかった」も「一気に入れて底をもっと下に見た」も、両方避けられます。
どの程度の額を、というのは人それぞれですが、原則は一つだけ。生活と心の平穏を脅かさない範囲で、です。暴落のときに大事なのは、最後まで市場に居続けることです。無理な金額を入れて、その後の値動きで眠れなくなるくらいなら、少なく入れて穏やかに続けるほうが、ずっといい。
後悔と、安心と
コロナのとき、私はもっと買えばよかったと、今でも少し思っています。あの底は、めったに来ない安売りでした。
でも、こうして全部を計算してみて、見え方が少し変わりました。私は確かに攻めきれなかったけれど、いちばんやってはいけない「売る」「止める」は、しなかった。淡々と積み立てて、少しだけ買い増して、相場が戻るのをただ待った。結果として、お金はちゃんと増えました。満点ではないけれど、大きな失敗もしていない。
これから投資を始める人に伝えたいのは、たぶんこういうことです。次の暴落は、いつか必ず来ます。そのとき、底で大量に買おうと意気込む必要はありません。やることは、売らないこと。止めないこと。余力があれば、底を狙わず、少しずつ買い足すこと。
それだけで、30年後のあなたは、淡々と続けた勇者として、ちゃんと報われているはずです。暴落は、攻略すべき強敵ではなく、ただ通り過ぎるのを待つ嵐のようなもの。傘をさして、じっと待っていればいい。その傘が、自動の積立設定です。
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