暴落を10年待ち続けた話。動かなかった現金の機会損失を、いま電卓で叩いてみた

2017年の春ごろだったと思います。日本の株もアメリカの株も、なんだかずっと上がりっぱなしでした。リーマンショックの記憶がまだ生々しかった私は、ぼんやりとこう考えていました。

「これだけ上がったんだから、そろそろ大きいのが来るやろ」

それで、当時手元にあった1000万円ちょっとを、投資には回さず現金のまま置いておくことにしました。名目は「暴落待ち資金」。本当に大きく下げたときに、一気に買い向かうための弾(たま)です。

我ながら、賢い判断のつもりでした。2017年からなので、もう9年。気分はすっかり10年選手です。

目次

待っても、来なかった

結論から言うと、私が思っていたような「リーマン級の暴落」は、その後ずっと来ませんでした。

2018年末に少し下げて「お、来たか?」と思いましたが、すぐ戻りました。2019年もずるずると上がり続けました。

そのあいだ、私の1000万円は銀行で静かに眠っていました。利息はほぼゼロ。1年経っても、3年経っても、ほとんど増えません。

一方で、相場のほうは私を置いて、どんどん先に行ってしまいました。

コロナが来た。でも、全部は入れられなかった

そして2020年3月、ついに本物が来ました。コロナショックです。

世界中の株が、ものの数週間で3割近く吹き飛びました。3年間ずっと待っていた、まさに「その瞬間」です。

ここで弾をすべて撃ち込めていれば、この記事のタイトルは「暴落を3年待って、底で1000万ぶち込んだ話」になっていたはずでした。

……なりませんでした。

実際の私はどうしたか。こわごわ少しだけ買って、あとは「いや、まだ下がる。リーマンのときは半分まで行ったんだから」と様子を見ているうちに、相場はあっという間に戻ってしまいました。やったことといえば、毎月の積立額を10万円ほど増やした、くらいです。

3年待って、本命が来て、それでも全部は入れられない。これが、暴落を待っていた人間のリアルな姿でした。

機会損失を電卓で叩いて、ちょっと青ざめた

では、あの1000万円を「暴落待ち」になんてせず、最初から淡々と全世界株(オルカン)に入れていたら、どうなっていたのか。

せっかくなので、電卓を叩いてみました。

オルカンが世に出たのは2018年の秋で、当時の基準価額は1万円でした。それが2026年のいまは、だいたい3万8000円。ざっくり3.8倍です。(2022年以降の円安のブーストもかなり乗っていますが、それも含めて現実です。)

つまり、もし2017〜2018年あたりで1000万円をオルカンに入れて、あとは何もせず放っておいたら——

1000万円 → およそ3800万円。

逃した値上がり益は、ざっくり2800万円。

…………。

私が「暴落を待つ」と決めた現金の置き場所は、9年かけて、家がもう一軒建つくらいの差を生んでいたわけです。

ちなみに、ちゃんと投資に回していたほうのお金は、いまのところそれなりに含み益があります。差を生んだのは才能でも相場観でもなく、「入れたか、寝かせたか」だけでした。

「暴落で安く買う計画」も、計算したら割に合わなかった

ここで、暴落待ち派の人(=過去の私)の反論が聞こえてきます。

「いや、コロナの底で買えていれば、結局そっちが得だったはずだ」と。

これも計算してみました。

コロナショックの底、2020年3月、オルカンは一時8000円を割り込みました。設定来の1万円から2割以上の下落です。たしかに、ここで買えれば「安く」買えました。

でも問題は、そこに至るまでの約3年間です。私はその3年間、ずっと相場の外で現金を握りしめていました。値上がりも、複利も、まるごと取り逃しています。

しかも、です。苦労して待ったコロナの底値(8000円割れ)は、私が待ち始めた2017年ごろの水準と、ほとんど変わりませんでした。

3年待って、神業のタイミングで底を引いて、ようやく「3年前とほぼ同じ値段」で買えただけ。そして現実の私は、その底値ですら全部は入れられなかった。

どう転んでも、待つ作戦に勝ち目はありませんでした。

桃鉄でいうと、目的地に向かわず通過し続けた9年

このへんの感覚は、桃鉄(桃太郎電鉄)に例えるとしっくりきます。

桃鉄では、目的地に最初に着いた人がボーナスをもらえます。だから普通は、まっすぐ目的地を目指します。

ところが当時の私は、「もっといいカードを引いてから動こう」「いまより、もっと安く止まれるマスがあるはずだ」と言って、目的地の周りをぐるぐる回っているようなものでした。

そうやって慎重に立ち回っているあいだに、淡々と目的地に向かったプレイヤー(=積立を続けた人)は、毎ターン着実に到着ボーナスを受け取っていく。気づけば、差は決定的になっていました。

暴落という「ビッグカード」を待ち続けて、目の前の目的地を、9年間ずっと通過し続けていたわけです。

それでも、この現金はいま、いちばんいい仕事をしている

……と、ここまで散々自分をいじってきましたが、実はこの話には続きがあります。

「暴落待ち」として寝かせていたその現金、いまも私の手元に残っています。金額は、当時から少し積み増して1600万円ほど。

そしてこのお金が、いまになって、まったく別の意味で効いています。

私はいま、1年限定のセミリタイア中です。収入がぐっと細った状態で、それでも家族5人わりと穏やかに暮らせているのは、この現金があるからです。

セミリタイアに入ってから、生活費としてだいたい200万円を取り崩しました。1800万円が1600万円になった。普通なら「資産が減った」と落ち込む場面かもしれません。でも私は、わりと平気でした。むしろ株のほうは1円も触らずに置いておけている。

つまり——

暴落待ちの弾としては、完全に不発でした。でも「いつでも使える現金のクッション」としては、人生でいちばんいい仕事をしてくれています。

現金は「いつか来る暴落」のためではなく、「いまの暮らし」のために持つ

9年かけて学んだことを一行でまとめると、こうなります。

現金は、いつ来るか分からない暴落のために寝かせるものではなく、いまの生活と、心の余白のために持っておくもの。

暴落を待つのは、もうやめました。相場がいつ下がるかは、投資歴15年でも、9年待っても、私には一度も当てられませんでした。だから投資に回すと決めたお金は、もう何も考えず淡々と積み立てるだけ。タイミングは計りません。

その代わり、生活を守る現金は、堂々と多めに持ちます。それは「機会損失」ではなく、「安心を買うための固定費」みたいなものだと、いまは思っています。

2800万円の勉強代は、正直かなり高くつきました。でもおかげで、「現金の正しい置き場所」がやっと分かった気がします。

もしいま、「暴落が来たら買おう」と現金を握りしめている人がいたら、一度だけ電卓を叩いてみてほしいです。たぶん、待つのをやめたくなります。


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