ドルコスト平均法は「リスクを後回しにしてるだけ」を体感した14年

ドルコスト平均法について、正直に書きます。

私はこれを14年続けてきました。毎月、決まった額を、相場を見ずに買い続ける。今もやっています。やめるつもりもありません。

それでも、ここ数年ずっと心に引っかかっていることがあります。右肩上がりの相場を眺めながら、何度も思ったことです。

これ、リスクを後回しにしているだけなんじゃないか、と。

積立は「コツコツ堅実」の代名詞で、初心者がまず教わる王道です。私もそう信じてやってきました。でも、14年分の体感に、過去データと理論をぶつけてみたら、その「堅実」の中身が、思っていたのとはだいぶ違うことが見えてきました。今日はそれを、都合の悪いところまで全部書きます。

最初に断っておくと、ここに出てくる数字はすべて一定の前提を置いた試算です。将来の成果を保証するものでも、特定の投資をすすめるものでもありません。

目次

「平均取得単価が下がる」という、半分だけ本当の話

ドルコスト平均法の説明で、必ず出てくる言葉があります。「価格が高いときは少なく、安いときは多く買うので、平均取得単価が下がる」。これが積立のメリットだとされています。

ここに、ちょっとした錯覚があります。

平均取得単価は、別に「下がる」わけではありません。正確には、「ならされる」だけです。高いときも安いときも一定額で買い続けるので、取得単価が期間中の平均的なところに落ち着く。それだけのことです。

そして、市場が長期的に右肩上がりだとしたら、どうなるか。「期間中の平均的な価格」というのは、たいてい「いちばん最初の価格」より高くなります。つまり、右肩上がりの相場では、最初にまとめて買ったほうが、平均より安く買えていたことになる。コツコツ買うほど、だんだん高くなっていく価格を、追いかけて買うことになるわけです。

「平均取得単価が下がる」が効くのは、相場が下がっていく局面、あるいは大きく落ちて戻る局面だけです。ずっと上がり続ける相場では、積立はむしろ、高くなっていく株を買い続けている。この一点に気づいたとき、私は積立の「正体」を考え直し始めました。

ドルコスト平均法の本質は「時間の分散」

もう少し踏み込みます。

ドルコスト平均法が本当にやっていることは、平均取得単価うんぬんではなく、「投資するタイミングを、時間方向に分散させること」です。今月の分は今月買う。来月の分は来月まで現金で持っておく。再来月の分は再来月まで。

ここで大事なのは、「まだ投資していない現金」の存在です。積立をしている人は、これから投じる予定のお金を、それまでのあいだ現金で持っています。その現金は、市場に出ていません。つまり、リスクを取っていない。

株式市場は、長期的には、リスクを取った人にご褒美を返してきました。これを「リスクプレミアム」といいます。値動きの怖さを引き受ける見返りに、預金より高い期待リターンがついてくる。これが投資でお金が増える、いちばん根っこの理由です。

ということは、「まだ投資していない現金」は、このご褒美を受け取りそこねている、ということになります。市場にいない時間のぶんだけ、リスクプレミアムを取りそびれている。

これが、「リスクを後回しにしている」ということの正体です。積立とは、リスクを取るタイミングを、自分の意思で遅らせ続ける行為なんです。怖さを後回しにできる代わりに、ご褒美も後回しになる。

では、その「後回し」に、どれくらいの代償があるのか。数字で見ていきます。

過去15年で、同じ360万円が1,150万円の差になった

2010年から2024年の15年間を例にとります。リーマンショックからの回復に始まり、コロナショックをはさみつつ、全体としては右肩上がりだった期間です。全世界株(S&P500で近似)に投資したと仮定します。

同じ360万円を投じるのに、二つのやり方を比べます。

  • A:2010年の初日に、360万円を一括投資する
  • B:毎月2万円ずつ、15年間(180か月)積み立てる(合計も同じ360万円)

元本はまったく同じ360万円。違うのは「いつ市場に入れたか」だけです。

方法元本2024年末の評価額利益
A 一括投資(2010年初)360万円約2,531万円約2,171万円
B 毎月2万円積立(15年)360万円約1,381万円約1,021万円
約1,150万円約1,150万円

同じ360万円で、1,150万円もの差がつきました。

差の正体は、これまで書いてきたとおりです。一括の360万円は、15年間まるごと市場にいました。一方、積立では、最後の2万円が市場に出るのは2024年末で、その2万円が働いた期間はたった1か月です。早く入ったお金ほど、長く複利で働く。「いつ市場に入るか」だけで、これだけの差が生まれた。これが「リスクを後回しにするコスト」の、過去の実例です。

「右肩上がりの時代を選んだだけ」への反論

ここで、まっとうな反論があります。「2010年からの15年は、たまたま右肩上がりだった。都合のいい期間を選んだだけだろう」と。そのとおりです。だから、特定の期間に頼らない検証もしてみました。

年平均7%、ぶれ(標準偏差)15%という、過去の株式市場に近い条件で、12か月ぶんの相場をコンピュータにランダムで1,000回つくらせて、一括と積立のどちらが勝つかを数えました。元手はどちらも120万円です。

結果回数割合
一括が有利だった618回61.8%
積立(DCA)が有利だった382回38.2%

3回やれば、だいたい2回は一括が勝ちました。

これは私が勝手に出した数字ではありません。Vanguard(米国の大手運用会社)が過去の市場データで行った有名な研究でも、「一括投資は、ドルコスト平均法より約3分の2のケースで有利だった」と結論づけています。期間や国を変えても、おおむね同じ傾向が出る。私のシミュレーションも、ほぼ同じ数字に着地しました。

なぜ一括が勝ちやすいのか。理由は一つです。株式市場は長期的に上がってきたから、早く入ったほうが有利になる確率が高い。リスクプレミアムは、市場にいる時間に比例して効いてくる。シンプルですが、これが核心です。

機会損失は、静かに積み上がる

1回や1年なら、一括と積立の差はわずかです。年7%の右肩上がりで、120万円を「年初一括」か「毎月10万ずつ」で運用しても、1年の差は4万円ほど。誤差みたいなものです。

問題は、これが何十年も積み重なることです。毎年120万円を積み立てるとして、「毎月分散」のままでいることの機会損失を、将来価値で見積もると、こうなります。

期間積み上がる機会損失の試算
10年約55万円
20年約165万円
30年約379万円

あくまで年7%という前提の試算ですが、30年で約380万円。何か特別なことをするわけではなく、ただ「入れるタイミングを少しだけ早める」だけで生まれうる差です。リスクを後回しにし続けると、その代償も、複利で膨らんでいきます。

それでも、ドルコスト平均法が勝つ相場がある

ここまで積立の弱点ばかり書いてきたので、フェアに、勝てる相場も示します。実際、相場の形によって、どちらが有利かは逆転します。4つの形で比べました。元手はどれも120万円です。

相場の形一括積立勝者
右肩上がり128万円125万円一括
下落 → V字回復140万円159万円積立
横ばい → 年末に急騰144万円144万円引き分け
右肩下がり83万円99万円積立

下がってから戻る相場や、ずっと下げ続ける相場では、積立が勝ちます。安いときに口数を多く拾えるからです。これこそが、教科書に書かれている「ドルコスト平均法の強み」の正体です。

つまり、こう整理できます。積立が一括に勝つのは、「これから下がって、その後で上がる」とき。一括が積立に勝つのは、「これから上がり続ける」とき。そして、未来がどちらになるかは、誰にも分かりません。分からないけれど、過去の超長期を見れば、世界の株式市場は上がってきた。だから「一括有利」のほうに分があった、というだけの話です。

ここまでが、理屈とデータの話です。結論だけ取り出せば、「理論上は一括が有利」。私が14年やってきた積立は、理論の上では、負けている戦略です。

それでも、私は積立を続けています。ここからは、その理由を書きます。

なぜ人は、負けるとわかっている戦略を選ぶのか

実は、「理論上は一括が有利なのに、多くの人が積立を選ぶ」というのは、行動経済学の世界では、よく知られた現象です。人間は、期待値の計算だけで動く生き物ではないからです。

二つの心理が効いています。

一つは、損失回避。人は、同じ額なら、得をする喜びより、損をする痛みのほうを、倍くらい強く感じます。一括で大金を入れた翌週に暴落したときの痛みは、じわじわ積み立てて同じ額を失うときの痛みより、はるかに鋭い。理屈の上で同じ損失でも、心の負担はまったく違うんです。

もう一つは、後悔回避。「あのとき全部入れさえしなければ」という後悔は、人を長く苦しめます。積立は、その後悔を時間で薄めてくれる。最高のタイミングで全額入れる栄光はないけれど、最悪のタイミングで全額入れる地獄もない。どっちつかずの代わりに、心が穏やかでいられる。

ここで大事なのは、これらが「人間の弱さ」ではなく、「投資を長く続けるための知恵」でもある、ということです。理論上わずかに有利でも、その戦略で夜眠れなくなって、暴落で売ってしまうなら、意味がありません。理論的な最適解より、自分が最後まで握っていられる戦略のほうが、結果的に強い。これは数字に出ない、けれど決定的な価値です。

私が積立を続ける、三つの現実的な理由

行動経済学の話に加えて、もっと地に足のついた理由が三つあります。

一つ目。そもそも私には、一括で入れる大金が、手元にありません。一括投資が有利なのは、「いま、まとまった現金が手元にある」という前提の話です。でも実際には、お金は毎月の給与として、少しずつ入ってきます。我が家は、その月の余剰を、その月にすぐ投じています。これは「毎月の一括投資」とも言えます。年単位で見れば12回に分けているだけで、手元に資金が生まれた瞬間に市場へ送り込んでいる。リスクを後回しにしているのではなく、「後からしか来ないお金を、来た順に入れている」だけなんです。

二つ目。私はリスク資産の比率が、すでに8割近くあります。これ以上、まとまった現金を一気に入れる余地はほとんどない。だから「一括か積立か」という問い自体が、もう我が家にはあまり当てはまりません。リスク資産比率が高い人にとっての本当の問題は、入れ方ではなく、「この高い比率のまま、暴落に耐えられるか」のほうです。

三つ目。14年積み立ててきたことで、私は相場の上下に、かなり鈍感になりました。コロナショックのときも、日経が史上最高値をつけたときも、大きく動じなかった。それは、毎月淡々と買い続ける習慣が、感情の振れ幅を、何年もかけてならしてくれたからです。この「動じない筋肉」は、一夜では手に入りません。積立は、お金を増やす手法であると同時に、自分を鍛える訓練でもありました。

結局、いちばん大事なこと

いろいろな角度から見てきました。最後に、これだけは伝えたいことを書きます。

一括か積立かという議論は、勝ち負けがはっきり決まる問題ではありません。相場の形しだいで結果は変わるし、人それぞれの資金状況でも最適解は違う。突き詰めれば、好みと事情の問題です。

でも、どちらを選んでも変わらない、もっと大きな問題があります。

市場から、逃げないこと。

一括だろうと積立だろうと、入れた後に相場が下がって「もう抜けよう」と売ってしまうのが、最大の失敗です。以前、暴落のシミュレーションをしたとき、狼狽売りをした人は30年後に3,000万円以上を失っていました。一括か積立かで生まれる差が、せいぜい数百万円から1,000万円。それに対して、「売るか売らないか」で生まれる差は、その何倍にもなる。

そう考えると、積立の本当の価値は、「平均取得単価」でも「リスク分散」でもないのかもしれません。毎月少しずつ買うという行為が、感情をならし、相場と長く付き合えるようにしてくれる。その結果として、暴落でも売らずにいられる。続けられる。それが、積立の、いちばんの強みなんじゃないか。

ドルコスト平均法は、確かにリスクを後回しにする手法です。理論の上では、一括に負けています。でも、そのリスクを後回しにすることで、人は市場に長く居続けられる。理論的に最強の戦略より、自分が最後まで続けられる戦略のほうが、現実には強い。

14年、毎月淡々と買い続けてきて、今のところ、私はそう思っています。負けている戦略を、納得ずくで選び続けている。それで、いいんです。


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