少し前まで、我が家は車で15分ほど離れた、安いスーパーにわざわざ通っていました。
同じ食材が、近所の店より明らかに安い。月にならすと、食費が3,000円くらい浮く計算でした。「これはお得だ」と思って、週に2回ほど、せっせと通っていたんです。
でも、あるとき、ふと立ち止まって計算してみました。すると、まったく違う景色が見えてきました。
以前、家計の最適解を毎年追いかけるのをやめた、という話を書きました。クレカもふるさと納税も、追いかけるコストのほうが得より大きい、と気づいた話です。ただ、追うのをやめると、今度は「では、何を基準に選べばいいのか」という新しい問題が出てきます。安さを追わないなら、何で決めるのか。
その問いに、我が家がたどり着いた答えが、「実質コスト」という物差しでした。今日はその話を、数字をたっぷり使って書きます。
安いスーパーは、本当に安かったのか
まず、さっきのスーパーの話から。ちゃんと計算してみます。
安いスーパーに通うことで、食費は月に3,000円ほど浮いていました。これは事実です。でも、そのために払っていたコストがありました。
往復で30分。それを月に8回。合わせて月4時間を、移動に使っていたことになります。この時間を、仮に時給2,000円で換算すると、8,000円ぶんです。さらに、ガソリン代が往復200円として、月8回で1,600円。
整理すると、こうです。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 食費の節約 | +3,000円 |
| 移動時間(月4時間×時給2,000円) | −8,000円 |
| ガソリン代(往復200円×8回) | −1,600円 |
| 実質 | −6,600円 |
3,000円得するために、9,600円ぶんのコストを払っていました。差し引き、月6,600円の「損」です。もちろん、時間をお金に換算するのは乱暴な計算ですし、ドライブが好きなら話は別です。でも、「安いから」という理由だけで通っていたのなら、これはむしろ高い買い物でした。
これに気づいてから、我が家は「安い」という言葉を、少し疑うようになりました。その安さは、隠れたコストを全部入れても、まだ安いのか、と。
隠れコストその1:まとめ買いの「捨てるぶん」
「安い」の代表格が、まとめ買いです。大容量パックは、単価が安い。これも、一見すると正しい。でも、ここにも隠れコストがあります。使い切れずに捨てるぶん、です。
たとえば、通常サイズなら単価300円のものが、大容量なら単価240円だとします。20%オフ。お得に見えます。
でも、大容量を買って、そのうち15%を賞味期限切れで捨てたとしたら、どうなるか。
実際に使えたぶんで単価を計算し直すと、240円 ÷ (1 − 0.15) で、約282円になります。20%オフだったはずが、実質では通常品と18円しか変わらない。もし2割を捨ててしまえば、単価の2割引きは、まるごと帳消しです。
我が家では、これで何度も失敗しました。安いからと大容量の調味料を買って、使い切れずに奥で固まっていた、というやつです。それ以来、まとめ買いは「本当に使い切れる量か」を先に考えるようになりました。単価の安さより、捨てないことのほうが、よほど効く。
隠れコストその2:サブスクは「1回あたり」で見る
次は、逆の考え方です。「使う回数で割る」と、実質コストが見えてきます。いちばん分かりやすいのが、サブスクです。
月額だけ見ると、どれも数百円から数千円で、なんとなく「まあこれくらい」と払い続けてしまう。でも、実際に使った回数で割ると、正体が見えます。
| サービス | 月額 | 月の利用回数 | 1回あたり |
|---|---|---|---|
| 動画配信A | 1,500円 | 2回 | 750円 |
| 動画配信B | 990円 | 12回 | 82円 |
| 音楽サブスク | 980円 | 60回 | 16円 |
| ジム | 8,000円 | 3回 | 2,667円 |
月に2回しか見ない動画配信は、1回あたり750円。もう、映画館とほとんど変わりません。一方で、毎日聴く音楽サブスクは、1回あたり16円。缶ジュースの何分の一かです。
同じ「月額サービス」でも、使用頻度で割ると、実質単価は桁が変わります。我が家は、これを計算して、月2回の動画配信を一つ解約しました。金額そのものは小さくても、「1回750円のものに、なんとなく払い続けていた」という事実のほうが、気持ち悪かったんです。
高いものが、実は安い。「1日あたり」の魔法
サブスクと同じ考え方を、モノにも当てはめてみます。「使う回数で割る」を、長く使う道具に当てはめると、面白い逆転が起きます。
| もの | 価格 | 使用回数 | 1回/1日あたり |
|---|---|---|---|
| ドラム式洗濯機 | 200,000円 | 毎日・5年(1,825回) | 約110円 |
| いいマットレス | 80,000円 | 毎晩・6年(2,190回) | 約37円 |
| たまに着るスーツ | 40,000円 | 年数回・計20回 | 約2,000円 |
20万円のドラム式洗濯機は、高い買い物に見えます。でも、5年間、毎日使うとしたら、1回あたり110円です。毎晩使う8万円のマットレスは、1日あたり37円。缶コーヒーより安い。
逆に、4万円のスーツでも、年に数回しか着ないなら、1回あたり2,000円もします。値段の絶対額ではなく、「1回いくらで使えるか」で見ると、高い・安いの感覚が、まるで変わってくるんです。
さらに面白いのが、ここに「時間」を入れたときです。安い縦型の洗濯機を5万円で買ったとします。20万円のドラム式より、15万円も安い。でも、乾燥機能がないので、毎日30分、洗濯物を干す手間がかかります。これを5年ぶん積み上げると、約900時間。時給2,000円で換算すると、約180万円ぶんの時間です。
もちろん、これも極端な計算です。干す時間を全部お金に換えられるわけではありません。でも、「安い縦型」が、時間まで入れると「高いドラム式」より高くつく可能性がある、という視点は、持っておいて損はないと思っています。よく使うもの、毎日触れるものほど、多少高くても良いものを選んだほうが、実質は安くなる。これが、我が家がたどり着いた一つの結論です。
売れるものは、実質コストが下がる
もう一つ、実質コストを大きく左右するのが、リセール(売却)です。買った値段から、売れる値段を引くと、本当に負担した金額が見えてきます。
| もの | 購入 | 売却 | 実質コスト |
|---|---|---|---|
| 学習まんが全巻セット | 30,000円 | 15,000円 | 15,000円 |
| ブランドのベビーカー | 40,000円 | 20,000円 | 20,000円 |
| ノーブランドの玩具 | 3,000円 | 0円 | 3,000円 |
4万円のブランドベビーカーは、高く見えます。でも、使い終わってフリマで2万円で売れたなら、実質の負担は2万円です。一方、3,000円の安い玩具は、安いけれど、売れないので実質3,000円まるごと負担になります。
つまり、「高くても売れるもの」と「安くても売れないもの」では、実質コストの計算が逆転することがある。以前、教育費もリセール込みで考えると半分になる、という話を書きましたが、あれと同じ発想です。買うときに「これは後で売れるか」を一度考えるだけで、実質コストの見え方が変わります。
安物買いの銭失いを、数字で確かめる
「安物買いの銭失い」という言葉があります。これも、寿命で割ると、はっきり数字に出ます。
700円のビニール傘は、安い。でも、すぐ壊れて、毎年買い替えるとします。一方、5,000円のしっかりした傘は、高いけれど、10年もつとします。
10年で計算すると、こうです。ビニール傘は700円 × 10回で7,000円。いい傘は5,000円のまま。安いはずのビニール傘のほうが、10年では2,000円高くつく計算になります。1年あたりで見ると、700円 対 500円。長く使うものほど、この差は開いていきます。
もちろん、傘はなくしやすいので、いい傘を10年持ち続けられるかは別問題です。でも、「安いから」と壊れる前提のものを買い続けるのが、必ずしも得ではない、というのは、覚えておいて損はありません。
結局、どこに、お金をかけるのか
ここまで、いろんな角度から実質コストを見てきました。最後に、これを一枚の地図にまとめます。我が家は、モノやサービスを、「満足度」と「使う頻度」の2つの軸で、4つに分けて考えるようになりました。
| 使用頻度が高い | 使用頻度が低い | |
|---|---|---|
| 満足度が高い | 良いものを買う(毎日使う家電・椅子・寝具) | 体験はケチらない(旅行・記念日・今しかできないこと) |
| 満足度が低い | 自動化・定額化で意識から消す(日用品・消耗品) | 最安でいい(来客用・年に数回のもの) |
満足度が高くて、毎日使うもの。ここは、多少高くても良いものを買う。1日あたりで見れば安いし、毎日の満足度が上がる。マットレスや、毎日使う家電が、これにあたります。
満足度は低いけれど、頻繁に必要になるもの。日用品や消耗品です。ここは、銘柄を決めて定期購入にして、選ぶこと自体をやめてしまう。安さを追いかけるより、意識から消すほうが得です。
満足度が低くて、めったに使わないもの。来客用の食器や、年に数回のもの。ここは、堂々と最安でいい。
そして、満足度が高くて、頻度は低いもの。旅行や、記念日や、子どもと過ごす時間。ここは、実は「実質コスト」の計算から、あえて外しています。今しかできない体験は、数字で割り切るものではないからです。固定費の話でも書きましたが、時間は取り戻せません。ここだけは、コスト計算を持ち込まないと決めています。
安さではなく、納得で選ぶ
「安いから買う」をやめて、「実質いくらか」「どれだけ満足か」で選ぶ。そう決めてから、我が家の買い物は、むしろ気持ちよくなりました。
面白いのは、実質コストで考えると、ケチになるどころか、良いものを堂々と買えるようになったことです。「これは毎日使って、1日あたり数十円で、満足度も高いから、この値段でも安い」。そう自分の中で計算がついていると、高い買い物にも、迷いがなくなる。逆に、「安いけど、たぶんすぐ使わなくなる」ものは、値札が安くても、きっぱり見送れるようになりました。
最適解を毎年追いかけるのはやめました。その代わりに手に入れた、実質コストという物差し。これは、追いかける必要のない、一度身につければずっと使える道具です。安さに振り回されるのをやめて、自分の物差しで納得して選ぶ。それだけで、家計も、気持ちも、ずいぶん軽くなりました。
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