我が家では、学校の宿題のほかに、朝に少し勉強、夜に英語を、というゆるい習慣を続けています。
続けています、と書きましたが、本人たちが進んでやるかというと、そんなことはありません。だいたい、なかなか始めない。それを見て私が「そろそろやったら?」「今日はやらないの?」と声をかける。すると、たいてい空気が悪くなります。ふてくされる。私も言ったあとで「また言ってしまった」と少し落ち込む。だいたい毎日、この繰り返しです。
困るのは、自分でもこれが良くないと分かっていることです。本を読めば「内発的なやる気が大事」「結果より過程を褒めなさい」と何度も出てくる。頭では分かっている。なのに、いざテストの点数を見ると、つい結果に目が行ってしまう。日能研のテストで思ったほど取れていないと、こちらもため息が出るし、本人もしゅんとしてやる気をなくす。
前に、家中にナッジを仕込む話を書きました(→家族のナッジ)。あれは「環境=モノ」を変える話でした。今回はその続きで、「親の声かけと褒め方=ヒト」を変える話です。
正直に言うと、いちばん変わらないといけないのは、たぶん私のほうです。親の“褒めるタイミング”にこそ、ナッジが要る。そう思って、調べたことと、我が家でこれから試すことを書いておきます。
きっかけになったのは、堀田秀吾さんの『すごい習慣大百科』(SBクリエイティブ)という本でした。習慣化に必要な原理は3つ。①まず動く、②今ある習慣にくっつける、③環境を利用する。読んでいて、これは自分が投資でやってきたことと同じだ、と気づいたのが、この記事を書こうと思った始まりです。
なぜ「勉強しなさい」は逆効果になりやすいのか
調べてみると、理由は2つあるようでした。
ひとつは、人は「自分で決めた」と感じたときにいちばん頑張れて、命令されると、同じことでもやる気が下がるからです。「やりなさい」と言われた瞬間、それは“自分のこと”でなく“やらされること”に変わる。大人でも、頼まれた家事より、自分で気づいてやる家事のほうが気分がいいのと同じです。
もうひとつが、ごほうびの落とし穴です。アンダーマイニング効果という言葉があって、もともと面白くてやっていたことに報酬をぶら下げると、目的が報酬にすり替わり、報酬がないと動かなくなる、という現象だそうです。「テストで○点取ったら△△を買う」は、短期的には効いても、長い目で見ると“ごほうびがないとやらない子”を育てかねない。
我が家はピラーの記事で、「ごほうびで釣りすぎない」を“やらないナッジ”に入れました。理屈は合っていた。でも、じゃあ代わりに何をすればいいのか。そこが今回の宿題でした。
何を褒めるか——「結果」ではなく「過程」
ここで出てくるのが、よく知られたドゥエックという心理学者の研究です。
子どもたちに少し難しい問題をやらせたあと、片方には「頭がいいね」と能力を褒め、もう片方には「よく粘ったね」と努力や過程を褒めた。すると、その後がはっきり分かれたそうです。能力を褒められた子は、難しい問題が出ると粘らなくなり、成績がむしろ下がった。一方、過程を褒められた子は、難問に挑むようになり、伸びていった。
面白いのは、ただ「頑張ったね」と気合だけを褒めても足りない、という点でした。大事なのは、“どう考えたか・どの工夫が効いたか”まで具体的に言葉にすること。我が家に当てはめると、こういう言い換えになります。
- 「100点すごい!」→「最後の問題、図を描いてから解いたのが良かったね」
- 「頭いいね」→「分からない所で止まらずに、別のやり方を試したのが効いたね」
- 「よくできました」→「昨日つまずいてた所、今日は自分で気づいて直してたね」
こうした“行為への前向きな承認”は、エンハンシング効果と呼ばれるそうです。信頼している相手(=親)からの、能力でなく行動への承認は、内発的なやる気をむしろ高める。逆に、点数や能力だけを評価していると、やる気は外側から支えられた“もろい”ものになる。
読んでいた本の言葉を借りれば、楽しさや好奇心で回る「ホワイトエンジン」と、恐怖やプレッシャーで回る「ブラックエンジン」の違いです。点数への不安や叱責(ブラック)で走らせると、速いけれど、燃料が切れたとき止まる。
親側のナッジ——褒めるタイミングを“仕組み”にする
理屈は分かりました。問題は、私がそれを本番でできるか、です。つい結果に目が行く自分を、気合では直せない。だから、ここも仕組みにします。
- 親のif-then。「子が机に向かったら、叱る前に、まず工程を1つ具体的に言葉にする」。順番を先に決めておく。
- 「勉強しなさい」の言い換えを、自分の口に用意しておく。「やりなさい」→「もう英語の時間だね」(合図にする)、または「どっちからやる?」(選ばせる)。命令を、合図か選択に変える。
- 結果が出なかった日ほど、過程に光を当てる。「点は悪かったけど、最後まで諦めずに解いてたのは、見てたよ」。
- 褒めた中身を軽く記録する。私は忘れっぽいので、冷蔵庫の小さなカレンダーに一言だけ残す程度。毎日書く宿題にはしません(ピラーの4つめの原則=手間のかかるものは続かない)。
- 余計なことを言わない。本によると、親が「昔は俺もできた」と自分の話を始めると萎えるそうです。黙って過程を見るのも、立派な関わり方。
テストのあと、「能動的な答え合わせ」をどう促すか
正直、いちばん欲しかったのがここです。日能研のテストで点が出ないと、本人がやる気を失って、答え合わせもせずに放置してしまう。これがいちばんもったいない。間違えたところこそ、伸びしろそのものなのに。
調べてみると、勉強でいちばん効くのは「読み返す」ことより「思い出す」ことらしいのです(テスト効果・リトリーバル練習)。だとすればテストは“結果”ではなく“教材”で、間違いは宝の山ということになります。そこで、答え合わせを促すナッジをいくつか用意しました。
- 間違いを3つに仕分ける。「知らなかった」「うっかり(ケアレス)」「時間切れ」。原因が分かると次の一手が決まる(知らなかった→覚える、うっかり→見直し方、時間切れ→解く順番)。仕分けるだけで、空気が“責める”から“分析する”に変わります。
- 「解き直しは1問だけ」ルール。全部やり直そうとすると重くて手がつかない。まず1問。ハードルを下げると、結局もっと進むことが多い。
- 間違いノートは“貼るだけ”。間違えた問題のコピーを1枚貼って、横に一言メモ。書き写させない(手間のナッジは続かないので)。
- タイミングをずらす。テスト直後は悔しさで頭に入らないので、少し時間を置いてから。さらにその1問を1週間後・1か月後にもう一度(間隔をあけた復習)。
- 答え合わせを“イベント”にする。親が採点して返すのではなく、子が自分で丸つけし、「どこで差がついたか」を一緒に探す。正解探しではなく、間違い探しを面白がる。悔しさ(ブラックエンジン)で燃やしすぎないのがコツです。
- そして、点ではなく“気づき”を褒める。「自分で答え合わせをした」「自分で間違いを見つけた」、その行為を褒める。点数には、触れなくていい。
これは、私の練習でもあります
書いていて思いましたが、これは子どものためというより、半分は私の練習です。つい結果を見てしまう自分を、声かけのテンプレと小さな仕組みで矯正している最中です。
うまく完璧にやろうとは思っていません(最適解じゃなくていい、というのも我が家の方針です)。10回のうち7回、結果じゃなく過程に目を向けられたら上出来、くらいの気楽さでやっています。
正直、始めたばかりで、劇的に変わったとはまだ言えません。ただ、考えた筋道を具体的に褒めたときの、あのちょっと得意げな顔は本物でした。たぶん、あれが燃料なのだと思います。
投資と、たぶん同じです
思えば投資もそうでした。「今日いくら儲かったか」という結果を毎日眺めるより、「淡々と積む」という過程を続けた人が、最後は勝ちました。
子育ても、きっと同じです。点数を見て一喜一憂するより、机に向かったその過程を、ちゃんと見られる親でいたい。
「勉強しなさい」と言わなくて済む家は、たぶん環境を整えるだけでは作れません。親の口グセと褒め方まで仕組みにして、ようやく少し近づく。半年後、自分の声かけがどれだけ変わったか、また正直に書きます。
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