「ひとりでできる」と「まだ無理」の間に、子どもの伸びしろは全部ある

長女のときは、教えすぎました。

最初の子で、かわいくて、つい先回りして全部やってあげていた。分からないと言えばすぐ答えを教え、つまずく前に手を出していた。その反省があるので、次女には意図して突き放しています。……が、今度は突き放しすぎな気もしていて、毎日この幅で揺れています。

教えすぎると、自分で考えない。突き放すと、折れる。じゃあ、どこが「ちょうどいい」のか。

ヒントになったのが、ヴィゴツキーという心理学者の「最近接発達領域」という考え方でした。名前はいかついですが、中身はとてもシンプルで、しかも我が家の困りごとに、ことごとく効きそうだったので、書いておきます。

目次

子どもの力は、3つのゾーンに分かれている

最近接発達領域(ZPD)は、子どもの力を3つのゾーンで考えます。

  • ひとりでできること
  • 手伝えば、できること
  • まだ、ひとりでも手伝っても無理なこと

このうち、子どもが伸びるのは、真ん中の「手伝えばできる」ゾーンだけ、というのが肝です。

ひとりでできることばかりやらせても、退屈で伸びない。まだ無理なことをやらせても、折れるだけ。次女が小1のとき、難しすぎる外部テスト(日能研)に撃沈してやる気をなくしたことがありましたが、あれは今思えば、真ん中を飛び越して「まだ無理」をやらせていたんだと思います。

ゲームが面白いのは、いつも真ん中を攻めてくるから

この「真ん中を攻める」を、世界一うまくやっているのが、実はゲームです。

桃鉄もSwitchのゲームも、「ちょっと頑張れば勝てそう」を、絶妙に突いてくる。簡単すぎたら子どもはすぐ飽きるし、難しすぎたら投げる。でも「あと一回やればいけそう」のラインを、ゲームはずっとキープしてくる。だから何時間でも没頭する。

これはまさに、最近接発達領域のど真ん中です。前に「ごほうびの記事」でフロー(没頭)の話を書きましたが、ゲームはそのフローに入る難易度設計の天才なんです。

だったら、勉強も暮らしも、この「ちょっと頑張ればできる」ゾーンを狙えばいい。子どもがゲームに没頭する仕組みを、こっちが借りればいいわけです。

親の仕事は「足場かけ」——手を貸して、できたら外す

真ん中のゾーンで子どもを支える手助けを、「足場かけ」と呼ぶそうです。

工事の足場と同じで、建てているあいだは支えるけれど、建ったら外す。一時的に手を貸して、できるようになったら、すっと引く。これが理想です。

手を貸し続けて外さないのが、過保護。最初から足場がないのが、放任。我が家は、妻が「1から100まで教えたい」派で、私は「さっさと外したい」派なので、毎日この綱引きをしています(どっちも正しいので、たちが悪い)。

この感覚、投資とまったく同じだなと思います。いきなり個別株(難しすぎ)に手を出すのでなく、まずオルカン(ちょうどいい)から始めて、慣れてきたら一段上げる。自分のレベルに合った難易度を選んで、できたら少しずつ上げていく。子育ても、同じ要領でいいはずです。

我が家の足場かけ、実例集

意識し始めて、いくつか試しています。

  • 算数:答えを言わない、と決めました。まず「どこまで分かった?」と聞いて、今いるゾーンを探る。そのうえでヒントを1つだけ出して、あとは自分で解かせる。全部教えるのは、足場を組んだまま外さない状態でした。
  • 自転車:これぞ足場かけの王様。後ろを持って支える→こっそり手を離す→気づいたら一人で漕いでいた。手を離すタイミングがすべてでした。
  • 料理の手伝い:最初から全部やらせない。「混ぜる」だけ任せて、できたら「計る」も足す。一段ずつ任せる範囲を広げる。
  • ゲーム:これは逆に、子どもから学ぶ番。勝手にちょうどいい難易度で上達していくので、親が手本にすべきはこっちでした。

課題その1:本を読まない次女を、どうするか

ここからは、我が家の現在進行形の悩みを、足場かけの視点で考えてみます。

次女は、本を読みません。読む力も少し弱い。これまで「読みなさい」と字の多い本を渡していたのですが、これがまさに「まだ無理」ゾーンへの放り込みでした。本人にとっては、いきなり難しい山に登らされている状態。これでは嫌いになるだけです。

足場を、思いきり下げることにしました。

  • 好きなものから入る。ポケモン、ゲームの攻略本、図鑑、まんが。長女がドラえもんの英語まんがで一気に覚えた話を前に書きましたが、まんがも攻略本も、立派な読書です。「字を読む」ことに変わりはない。とりあえず「おしり探偵」と「しずくちゃん」から。
  • 1年生の頃は、交代読み。親が1ページ、次女が1ページ。一人で全部はまだ無理でも、半分なら読める。これが足場です。続きが気になるところで、あえてやめる。「明日の自分」に渡しておく。
  • 読み聞かせから、少しずつ自立読みへ。今は8割親が読んでいるなら、来月は7割に。足場を、ゆっくり外していく。

家にある本棚(前に「500冊マップ」の記事を書きました)を、いい本を探す棚ではなく、「今の次女がちょうど読める1冊」を選ぶ道具として使い直そうと思っています。

課題その2:自分の意見を言う・書くのが苦手

二人とも、自分の意見を表現するのが苦手で、積極性に欠けます。とくに次女は、書くのが苦手。

でも、いきなり「自分の意見を書きなさい」は、足場ゼロで崖を登れと言っているようなものでした。これも段階に分けます。

  • まず、3択から選ばせる。「AとBとC、どれがいい?」。前に「自分で決めさせる」記事で書いた3択が、ここでも足場になります。選ぶのは、意見表明のいちばん低い段。
  • 次に、「なんで?」を口頭で一言。書くより、話すほうがずっとハードルが低い。食卓で「これ、どう思う?」を軽く挟む。
  • 型を渡す。「○○だと思う、なぜなら△△だから」。空欄を埋めるだけにすれば、書ける。型は、文章の足場です。
  • 慣れたら、1文だけ書く。それができたら、2文に。

積極性も同じで、いきなり「もっと積極的に」は無理。料理で「次どうする?」、ゲームで「どっちを選ぶ?」と、小さな意思表示を毎日積む。小さな「言えた」「決められた」が、自己効力感(前の記事で書いた「やればできそう」の感覚)を育てて、積極性につながっていくはずです。

課題その3:能力のある長女は、ゾーンの天井を上げる

長女は、わりと何でもできてしまう。だからこそ、簡単なことをやらせていると退屈してしまう。フローが切れて、力を持て余す。

長女には、ゾーンの天井のほうを上げたい。少し背伸びの課題を渡す。そして、いちばん効く足場かけだと思っているのが——「次女に教える役」をやらせることです。

人に教えると、自分の理解がぐっと深まる。前に「答え合わせ」の話で、思い出す・説明することが記憶に効くと書きましたが、まさにそれ。長女が次女に教えると、長女のゾーンの天井が上がり、同時に次女の足場にもなる。姉妹で一石二鳥です。親が全部やるより、よっぽどいい。

いちばん難しいのは、足場を「外す」こと

ここまで書いて、結局いちばん難しいのは、手を貸すことではなく、手を離すことだと改めて思います。

手を貸すのは簡単で、つい気持ちいい。でも、外さなければ自立しない。妻は1から100まで教えたい派、私は早く外したい派。長らく対立してきましたが、最近は「妻が足場をかける役、私が外す役」と分担すればいいんじゃないか、と思い始めました。夫婦は共同経営。役割が違うのは、むしろ強みかもしれません。

口を出したいのをこらえる。これは前の「自分で決めさせる」記事から、ずっと我が家の宿題です。

「ひとりでできる」と「まだ無理」の間に、全部ある

子どもの伸びしろは、「ひとりでできること」の中にはありません。かといって「まだ無理なこと」の中にもない。その、ちょっとの隙間。「手伝えばできる」というあの狭いゾーンに、伸びしろは全部つまっています。

簡単すぎず、難しすぎず。ゲームが教えてくれたあの難易度設計を、勉強にも、本にも、暮らしにも。投資と同じで、今のレベルに合った一段を選んで、できたら少しだけ上げていく。

派手なことは、何もありません。ただ、その子が今いるゾーンを、ちゃんと見てあげること。たぶん、それが親にできる、いちばん地味で、いちばん効く仕事なんだと思います。


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