夕飯づくりが、いつのまにか我が家の勉強になっていた

「これ、2人前だから……3人分なら、1.5倍?」

長女がレシピの紙を見ながらつぶやいて、次女が「アレクサ、120かける3は?」と棚に向かって聞いていました。台所で姉妹がそんなやりとりをしている横で、私はただ材料を切っていただけです。

もともとは、料理が学びになるなんて、これっぽっちも考えていませんでした。

我が家は食材宅配のヨシケイを使っています。きっかけは完全に、買い物と献立を考える手間をなくしたかったからです。レシピと、それに必要なぶんだけの食材が、毎日届く。冷蔵庫の前で「今日どうしよう」と悩む時間が、まるごと消えました。大人の都合です。

ところが、そのうち子どもたちが台所に立つようになって、思っていたのと全然違うものが始まりました。

目次

「自分で選んだから、食べる」

ヨシケイは週ごとにプランを選べて、プランによって献立も値段も違います。曜日単位で変えることもできますが、そうすると少し割高になる。

その「選ぶ」を、子どもに渡してみました。

すると、面白いことが起きました。自分でメニューを選ぶと、文句を言わなくなったのです。いつもなら「これ嫌い」と残しそうなものでも、自分が選んだとなると、責任を持って食べる。これは我が家でずっとテーマにしてきた「自分で決めさせる」話と、まったく同じでした。決める→引き受ける、という流れが、食卓でも回り始めたわけです。

そのうち、子どもは自分から翌週のメニュー表を眺めるようになりました。「来週これがいい」と指をさす。選ぶ楽しさを覚えると、食事そのものへの向き合い方が変わってくるようです。

しかも、値段が見えるのもよかった。「こっちのプランのほうが安いね」と言い出したときは、内心おどろきました。コスト意識まで、勝手に育っている。

気づいたら、こんなに学んでいた

台所に立たせていただけなのに、振り返ると、ずいぶん色々なことに触れていました。書き出してみます。

  • 分数・比例・単位量:2人前のレシピを3〜4人前にして作ることが多いので、毎回かけ算が発生します。暗算できないときは「アレクサ、◯かける3は?」と聞いて、そのあと私がフォローする。生活の中の計算は、ドリルより手が早い
  • 読解力:レシピは紙の手順書です。順番どおりに読んで、その通りに動く。意外とこれが難しくて、いい訓練になります
  • 段取り・プロジェクト管理の入口:「お湯を沸かしている間に野菜を切る」みたいに、複数のことを同時に進める。料理は小さなプロジェクトマネジメントです
  • 理科:火を入れると肉の色が変わる、加熱すると水分が飛ぶ、卵が固まる。タンパク質が変わる瞬間を、毎日目の前で見ている
  • 地理・食文化:「韓国風」「インド風」「きりたんぽ」「ほうとう」。レシピに出てくる名前から、その土地や名物を知る。紙で見るから、目にも残る
  • 語彙力:「アレンジ」「リメイク」みたいな言葉を、子どもが使い始めました。意味を体で覚えている

狙って教えたものは、ひとつもありません。料理という一つの作業の中に、たまたま全部入っていただけです。机に向かう勉強とは違う、生活そのものから学ぶこの感じが、いちばん根に残るんじゃないかと思っています。

姉妹で作ると、また違う

長女と次女が二人で協力して作る日があります。

これがいい。一人が切って、一人が炒める。「次これやって」と指示を出し合う。うまくいかないと小さくぶつかって、できあがると二人で得意げにしている。料理が、きょうだいの共同作業になっている。

こういう、テストでは測れない力—人と協力する、最後までやり切る、自分で工夫する—を、最近は非認知能力と呼ぶそうです。社会に出てからいちばん効くのはこっちだ、という話もあります。それが台所で勝手に育っているなら、こんなに安上がりな教育はありません。

そして、できあがった料理を「自分で作った」と食べるときの顔。あれは自信そのものです。小さな「できた」を積むことが、自己肯定感や、自分にもできるという感覚につながっていく。料理は、その「できた」を毎日くれます。

余った食材が、いちばんの教材かもしれない

ヨシケイは必要なぶんだけ届くのですが、それでも少し食材が余ったり、こんなにこの野菜は食べないからあえて残す日があります。

うちはこれを、わざと残す感覚でためておいて、週末にまとめて化けさせます。チーズをのせてグラタンにしたり、炒めてまったく別物にしたり。最終的にオムレツや鍋に放り込むことも多い。

この「ありもので何か作る」が、実は一番頭を使います。決まったレシピのない料理。あるものを見て、何ができるかを考える。これこそ応用問題だな、と作りながら思います。子どもも「これとこれ混ぜたらどうなる?」と実験を始める。失敗もしますが、その失敗がまた面白い。

時短のはずが、時間が増えた

不思議な話なのですが、料理にかかる時間は確かに減りました。献立を考えず、買い物にも行かず、必要なものが届くからです。決断疲れも、ぐっと軽くなりました。これは大人にとっての、まぎれもないメリットです。

でも、浮いた時間がそのまま自由時間になったかというと、そうでもない。その時間を、子どもと一緒に料理することに使うようになったからです。作りながら今日あったことを話したり、できあがりを一緒に振り返ったり。家族の会話が、確実に増えました。

効率化して時間を作って、その時間をまた家族に使う。投資のお金の話と、構造はよく似ています。仕組みで手間を減らして、空いたところに本当に大事なものを置く。

ただ夕飯を作っているだけのつもりが、いつのまにか、我が家でいちばん豊かな時間になっていました。


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