以前、学資保険とNISAを数字で比べた記事を書きました。結論はシンプルで、教育資金を「増やす」目的なら、多くの場合インデックス投資のほうが有利、というものでした。
→ 【数字の罠】学資保険は本当にお得か。IRR・節税・機会損失を全部計算してみた
→ 学資保険「節税で得」は嘘。IRR・控除枠・機会損失で167万円損する話
ただ、この2本は「比べたらこうだった」という結果の話でした。書いたあとで、自分の中に残った疑問があります。そもそも、なぜそうなるのか。保険料をちゃんと払っているのに、なぜ払った額とほぼ同じ、場合によっては少ない金額しか戻ってこないことがあるのか。
保険会社が悪意で少なくしているわけではないはずです。そこには必ず、仕組みとしての理由がある。今日は、学資保険だけでなく、終身保険や個人年金といった「貯蓄型保険」全般について、なぜそういう数字になるのかという中身を分解してみます。以前、住宅ローンの返済表を「利息と元金の内訳」に分けて眺めたのと、同じやり方です。
→ 住宅ローン、なぜ最初は利息ばかり払うのか。賃貸暮らしが調べてみた
払った保険料は、全額が積み立てられているわけではない
まず、いちばん大事なところから。私たちが払う保険料は、その全額が将来の受取金として積み立てられているわけではありません。保険料は、大きく2つの部分に分かれています。
- 純保険料:将来の受取金の原資として積み立てられる部分、および万が一の保障に使われる部分
- 付加保険料:保険会社の運営費、人件費、広告費など、事業を回すための経費部分
この付加保険料の分だけ、払ったお金の一部は最初から積立に回りません。各社ともこの内訳を細かくは公表していないので正確な割合は分かりませんが、一般的な構造として、ざっくりしたイメージで表にするとこうなります(あくまで一定の前提を置いた仮の割合で、諸説あります)。
| 払った保険料10,000円の行き先(イメージ) | 金額 |
|---|---|
| 純保険料(積立・保障に回る部分) | 約8,500〜9,000円 |
| 付加保険料(運営費・手数料) | 約1,000〜1,500円 |
これは、住宅ローンで「毎月の返済額のうち、いくらが元金でいくらが利息か」を見たのと、まったく同じ発想です。表に出ている「保険料」という一つの金額の中で、実は行き先が分かれている。そして、積立に回るのはその一部だけ、という構造でした。
返戻率が「100%を少し超える程度」の商品が多いのは、この構造で考えると腑に落ちます。運用で増えた分の多くが、付加保険料や保障のコストで相殺されている、という見方ができるからです。
もう一つの仕組み。「予定利率」で増え方が決まっている
保険料の一部が積み立てられるとして、その積立部分がどれくらい増えるか。これを決めているのが「予定利率」です。
予定利率とは、保険会社が「預かった保険料をこれくらいの利回りで運用できる見込み」として、あらかじめ契約時に設定する利率です。この利率が高いほど、同じ受取額に対して保険料は安くなり、実質的な返戻率も上がります。
ここで大事なのは、予定利率は契約時に固定されるという点です。つまり、加入した時点の金利環境で、その契約の増え方がほぼ決まってしまう。長く金利の低い時代が続いていたので、その間に契約された貯蓄型保険は、予定利率も低く設定されていました。返戻率が伸びなかったのは、これが大きな理由です。
ただし、ここは正直に補足しておきます。2026年に入って、金利の上昇を受けて、各社が予定利率を引き上げる動きが出ています。ある大手生命保険会社は、一時払い終身保険などの予定利率を、28年ぶりの水準まで引き上げると公表しました。学資保険でも、返戻率が改善して120%台の公表例が出てきています。
だから「貯蓄型保険は必ず損」と一方的に言い切るのは、今の環境では正確ではありません。金利が上がれば、保険の条件も改善する。この記事も、あくまで「仕組みとしてこういう構造になっている」という話であって、個別の商品が得か損かは、その時々の予定利率とあなたの目的次第です。
途中でやめると、なぜ元本割れするのか
貯蓄型保険でもう一つ分かりにくいのが、「途中で解約すると、払った額より大幅に少なく戻ってくる」という現象です。これには「解約控除」という仕組みが関係しています。
保険会社は、契約の初期に、募集にかかった費用などのコストを多く負担しています。そのため、早い時期に解約されると、そのコストを回収しきれません。それを解約者に負担してもらう形で差し引かれるのが、解約控除です。
特に「低解約返戻金型」と呼ばれる終身保険などでは、この傾向がはっきりしています。払込期間の途中で解約すると、解約返戻金が払込額の7割前後に抑えられる設計のものもあります。
| 100万円を払い込んだ時点で解約すると(低解約返戻金型のイメージ) | 戻る額 |
|---|---|
| 払込期間の途中で解約 | 約70万円(約3割減) |
| 払込満了まで持ってから解約 | 返戻率が跳ね上がる |
払込期間中に解約すると約3割も減るのに、満了まで持てば返戻率が一気に上がる。これは裏を返せば、「途中でやめさせない」ための強い拘束力になっています。強制的に積立を続けさせる仕組み、とも言えます。これを「貯蓄が苦手な人には向いている」と見るか、「身動きが取れなくなる」と見るかは、人によって評価が分かれるところだと思います。
同じ保険料を、インデックス投資に回していたら
では、この「付加保険料が引かれ、予定利率で増え方が決まっている」お金を、もし同じ額だけインデックス投資に回していたら、どうなるか。これまでの記事と同じやり方で計算してみます(年5%で運用できたと仮定した、あくまで一定の前提の試算です。投資は当然、値下がりのリスクもあります)。
まず、学資保険のイメージ。月1万5,000円を10年払い込み(総額180万円)、18歳で受け取る形を考えます。
| 学資保険(返戻率105%と仮定) | 同額をインデックス投資(年5%・18年) | |
|---|---|---|
| 払込総額 | 180万円 | 180万円 |
| 18歳時点の受取 | 約189万円 | 約344万円 |
| 差 | — | 約155万円 |
次に、個人年金のイメージ。月1万円を30年払い込み(総額360万円)、老後に受け取る形です。
| 個人年金(返戻率115%と仮定) | 同額をインデックス投資(年5%・30年) | |
|---|---|---|
| 払込総額 | 360万円 | 360万円 |
| 受取 | 約414万円 | 約832万円 |
| 差 | — | 約418万円 |
期間が長い個人年金のほうが、差は大きく開きます。約418万円。これは、以前の複利の記事で見た「時間が長いほど複利の差が開く」という話が、そのまま効いています。付加保険料で目減りし、低い予定利率で固定された増え方と、市場全体の成長をそのまま受け取る増え方の差が、30年という時間で大きく広がるわけです。
→ 積み立てているだけなのに、なぜインデックスで複利が効くのか。腑に落ちるまで調べてみた
それでも、貯蓄型保険が向く人はいる
ここまで書くと「保険はダメ」という話に聞こえるかもしれませんが、私はそう単純には思っていません。以前から我が家は保険は基本不要という立場ですが、それは「誰にとっても」ではなく、「自分たちの場合は」という前提の話です。
→ 生命保険は不要。3児パパが「死んでも家族は困らない」と言い切れる根拠を電卓で計算
貯蓄型保険には、投資にはない機能があります。ひとつは、契約者に万が一があったとき、以後の保険料が免除されて予定どおり受取金が支払われる、という保障です。インデックス投資には、この「途中で自分がいなくなっても積立が完了する」機能はありません。もうひとつは、さきほどの解約控除の裏返しで、「途中でやめられない」という強制力です。相場が下がると怖くて売ってしまう、コツコツ貯金が続かない、という自覚がある人にとっては、この不自由さがむしろ安全装置になります。
だから、これは「増やす道具」と「守る道具」を取り違えないという話でした。貯蓄型保険を「増やす」目的で見ると、付加保険料と予定利率の壁があって、投資には見劣りします。でも「確実に守る」「強制的に続ける」道具として見れば、その価値は数字だけでは測れません。自分がどちらを求めているのかを、はっきりさせることが先だと思います。
中身を開けてから、選ぶ
賃貸暮らしで住宅ローンの返済表を眺めたときと、同じことを感じました。「保険料」や「返済額」という一つの金額を眺めているだけでは、その中で何が起きているのかは見えません。保険料の中には純保険料と付加保険料があり、その増え方は契約時の予定利率で固定され、途中でやめれば解約控除で削られる。中身を開けてみて初めて、返戻率という数字の意味が分かりました。
保険に入ること自体を否定したいわけではありません。ただ、中身を知ったうえで「それでも自分にはこの安心が必要だ」と選ぶのと、返戻率という表面の数字だけを見て何となく選ぶのとでは、あとからの納得感がまるで違うはずです。
賃貸の私にできるのは、やっぱり電卓を叩いて中身を開けてみることくらいでした。でも、開けてみると、たいていのものは「なぜそうなっているのか」の理由がちゃんとありました。
(この記事の試算は2026年7月時点の一般的な商品構造をもとにした一定の前提での計算であり、諸説あります。付加保険料の割合や予定利率は保険会社・商品・契約時期により大きく異なり、非公表のものも多くあります。2026年は金利上昇で予定利率が改善傾向にあります。実際の加入・解約の判断は、必ず各商品の設計書と最新の公式情報、必要に応じて専門家への相談のうえで行ってください。私は保険や金融の専門家ではありません。)
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