我が家には、妻あてに書いた一枚の「引き継ぎ書」があります。
もし自分が先に死んだら、これを読んでほしい—そういう前提で書いた紙です。物騒に聞こえるかもしれませんが、私にとってはこれも、れっきとした家計管理のひとつです。
きっかけは、「数字上は大丈夫」と分かったこと
以前、「自分が死んだあと、家族の暮らしは数字でどうなるのか」を、まじめに計算してみたことがあります。
結論は、わりとあっさりしていました。保険に入っていなくても、数字の上では、家族はちゃんと暮らしていける。そう分かって、正直ほっとしました。
でも、その計算には、ひとつだけ前提がありました。
—妻が、慌てて売らないこと。
数字が成り立つのは、積み上げてきたオルカンを、そのまま持ち続けた場合だけです。もし私がいなくなった直後に、不安にかられて全部売ってしまったら、計算はぜんぶ崩れます。
だから私は、数字の話とは別に、「実際にどうしてほしいか」を書いた指示書を用意することにしました。
まめ家版・バフェットの遺言
参考にしたのは、投資家のウォーレン・バフェットが、自分の死後について妻のために遺したとされる指示です。
要旨はとてもシンプルで、資産の大部分をごく低コストのS&P500のインデックスファンドに、残りを短期の国債に置いておけばいい、というもの。プロに運用を任せるな、難しいことはするな、ただ持っていろ、と。世界一の投資家が家族に遺した結論が「ほったらかしのインデックス」だったというのは、何度聞いても効きます。
我が家版は、もっと短いです。「オルカンを、そのまま持って」。これに尽きます。
引き継ぎ書に書いてあること
中身は、拍子抜けするほど事務的です。具体的な口座番号や保管場所はここには書けませんが(防犯上の理由です)、構造はこんな感じです。
ひとつ。まず、何も売らないこと。値段も、しばらく見なくていい。
ふたつ。お金は楽天証券とSBI証券にある。窓口に「相続したい」と伝えれば、手続きはぜんぶ向こうが教えてくれる。迷ったら、誰かに相談する前に、まず証券会社に聞くこと。
みっつ。保険には入っていない。入る必要もない。これは普段から話しているとおり。
よっつ。年金は、もらえる時期をぎりぎりまで遅らせること。
いつつ。生活費が年いくらまでなら一生もつか、その数字は別に出してある。
—これだけです。
いちばん書きたかったのは、「売るな」の一行
正直に言うと、この紙でいちばん伝えたいのは、最初の一行だけです。
「まず、何も売らないこと。」
自分が死ぬこと自体より、私が怖いのはそこでした。私がいなくなった直後、相場がたまたま大きく下げていたら。不安と悲しみの中で、妻が「とりあえず現金にしておこう」と全部売ってしまったら。15年かけて積み上げたものが、不安な数日で、半分くらいになってしまうかもしれない。
それだけは防ぎたかった。だから、何度でも同じことを書いています。見るな、触るな、売るな、と。
妻には、もう渡してある
この引き継ぎ書、しまい込んでいては意味がないので、妻には存在も、置き場所も、すでに伝えてあります。
渡したときの反応は、わりとあっさりしたものでした。重く受け止められるかと思いきや、「ふうん、わかった」くらいの温度で、こちらが拍子抜けしたのを覚えています。たぶん、それでいいんだと思います。深刻な顔で読むものではなくて、いざというとき、淡々と開けばいいものですから。
仕組みで残すのも、たぶん愛情の形
最後に白状すると、あれだけ事務的な紙なのに、私はいちばん下に、お金とは関係のない一行だけ、書き足してしまいました。何を書いたかは、さすがに恥ずかしいので内緒にしておきます。
ふだん私は、家族のことも、つい数字や仕組みで考えてしまう人間です。愛情を言葉で上手に伝えるのは、得意なほうではありません。
でも、自分がいなくなっても家族のお金が回るように整えておくことは、私にできる数少ない、はっきりした備えでした。仕組みで残すのも、たぶん、ひとつの愛情の形なんだと思います。
願わくば、この紙が日の目を見るのは、できるだけずっと先でありますように。
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